キャットボート(1枚帆の小型ヨット)の適地について 1999.10.11
──キャットボート(1枚帆の小型ヨット)について考える 第1回── 雛元 昌弘
1.「冒険ヨット・スピードヨット」対「アウトドアライフ型ヨット」
ヨットというと「海」「湘南」というイメージがあります。あるいは、「太平洋ひとりぼっち」のような外洋での冒険やレースのイメージがついてまわります。
普通の人がヨットについてえることができるマスコミからの情報は、アメリカズ・カップなどの外洋レースか、遭難事故の記事しかありませんから、どうしても遠い世界の危険なイメージになってしまいます(結果的に、マスコミが小型ヨットの普及を妨げる一番の原因をつくっています)。強い風を受けてヒールしながら走る姿は、見ていてかっこいいものの、たいへん過酷な、難しいスポーツの印象を与えます。
私は、ずっと『BE−PAL』などのアウトドア雑誌を見ていますが、カヌーの記事はあっても、ヨットについての紹介は皆無と思います。
船や海の関係者の、限られたジャンルの活動と見られており、「アウトドラライフ」の1つの楽しみ方、というイメージは全然、ありません。
2.イメージ先行で親しまれていない
一方、私は湖や海のほとりの仕事をする事がよくありますが、デザイナーがつくったイメージスケッチやグラビア写真には、必ずヨットが浮かんでおり、役所職員の名刺の写真などにもしばしば、ヨットが使われています。
職員研修などの機会に市町村の職員に質問した事がありますが、カヌーやシーカヤックをやった事のある人は 100人について3〜4人程度、ヨットはほとんど0又は1人という状態です(ちなみに、海辺の市町村で、和舟を漕いだことがあるのは、私の年代か少し下、40歳後半までに限られます)。
ヨットはイメージとして、景色としてはプラスの評価を受けているものの、普通だとまず、体験する機会がない、というのが現実だと思います。
3.3Kイメージが問題(危険、困難、金持ち)
長い歴史がありながら、ヨットがほとんど普及しない、というのには、それなりの理由があるはずです。子供が海や湖、川で泳いだり遊んだりすることが稀になり、舟づくりの文化が完全に消えてしまったわが国において、ヨットの普及など、まず無理なようにも思えます。
しかしながら、20年来のカヌーの普及経過をみていると、私は、小型ヨットなら、十分に可能性があると考えます。まず、大事なことは、ヨットのイメージを根本から変える、ということだと思います(特に、マスコミの役割が重要)。
「ヨット=海のスポーツ(それも湘南のような太平洋の)」、「ヨット=難しい」、「ヨット=クルーザーの世界=金持ちの遊び」という3つのイメージをまず、変えなければ、と考えています。
「面白そうだ」「「試してみたい」「楽しんでみたい」という意識より先に、「危険(こわい)」「困難(難しい)」「金持ち(別世界)」というような3Kイメージがあるようだと、いつまでたってもヨットの普及はありえません。この3Kイメージが変えられれば、可能性はでてきます。
4.外洋ヨットと湖のヨット
今回、ここでは、「ヨット=危険」というイメージ、「ヨット=海のスポーツ(それも湘南のような太平洋の)」というイメージをかえよう、ということをテーマとして述べてみたいと思います。
わが国では、他のスポーツと同様に、新しいスポーツの多くは、学生から、それも数が多い東京(首都圏)から広がりました。
そのフィールドが首都圏でどこになるか、というと、海岸という海岸が、港や工場に占拠され、海上交通量の多い東京湾から、無動力船の小型ヨットは次第に締め出されて、ヨットのフィールドは湘南が中心となりました。クルーザーの場合も、外洋にでるまでに時間がかかる東京湾の奥深くは敬遠され、移動していきました。
人目につく機会の多い東京湾でヨット(特に、小型ヨット)の姿が消え、外洋に面した湘南に拠点が移ったことにより、結果的に、日本のヨットのイメージは狭く限定されることになってしまいました。
穏やかな水面の内湾や湖のスポーツ・レクリエーションヨット、というイメージは首都圏から消えてしまい、波しぶきをあげながらスピードを競う、というイメージの世界が残ったのです。
もちろん、首都圏の山中湖や野尻湖、霞ヶ浦、関西の琵琶湖、東北の猪苗代湖などでのヨットはありますが、湖のレクリエーションとしてのヨット、というイメージは主流にはなれませんでした。

欧米のように、静かな「湖のヨット」「内湾のヨット」こそ、誰でも、気軽に舟遊びを楽しめる、本来のヨットの世界であるというイメージができなかったところに、わが国のヨットが普及しなかった原因があるように思います。
- スキーでは、デレンデスキーが主流で、山スキーは別の冬山登山の世界であるように、ヨットにおいても「湖のヨット」が主流で、「外洋のヨット」は一部の人の別世界のスポーツ・冒険、というようにならない限り、ヨットは広がらないようにおもいます。
5.「湖のヨット」の世界のイメージ湖のヨット
- 「海のヨット」と異なり、「湖のヨット」の世界のイメージは、次のような違いがあります。
「湖のヨット」の楽しみ方

1) アウトドアライフの1ジャンル
1つ目のタイプは、アウトドアライフの1つの活動としてヨット(1枚帆の小型ヨット−キャットボート)を楽しむ、というスタイルです。
多くの人々の活動は、水辺でキャンプをしたり、バーベキューをしたり、水遊びをしたり、木陰でくつろいだり、散歩したりしながら、キャットボート(1枚帆の小型ヨット)やカヌーでも遊ぶ、とやり方です。私たちの楽しみ方は、だいたい、このような活動です。
- 2) 移動の手段として活用
もう1つのジャンルは、小型ヨットを移動の手段として活用する遊び方です。釣り(ライトトローリングを含む)、野鳥観察、無人島キャンピングなどの手段として、キャットボート(1枚帆の小型ヨット)は、カヌーと較べて、はるかに優れている点があります。
カヌーと較べて、安定しており(立っても、グラグラしなる)、なにより、長距離を移動するのに楽ですし、荷物を沢山積むことが可能です。風がないと手も足もでませんが、その時には、オールで漕ぎ、性能の悪いカヌーとして利用すれば、使えないことはありません。また、自然エネルギーを利用するため、音も排気ガスも水を汚すこともなく、環境に優しい乗り物です。素材はアルミパイプと、プラスチックの布と帆ですから、簡単にリサイクル可能です。
流れの急な狭い川はともかく、湖や内湾などのアウトドア活動の移動手段として、決して、カヌーには劣りません。是非、試してみてもらいたいものです。
6.「湖のヨット」の可能性
- このような活動ができる場所は、わが国にあるでしょうか。
- 幸い、各県に1か所は、湖(飲料水用のダム湖はボート遊びが可能かどうか、チェックが必要です)や静かな内海、流れのゆるやかな河口などはあります。
安全に乗って楽しむだけなら、湖などの広さは、岸から目の届く 500m× 1,000mもあれば十分です。あまり広くても、ただ一定方向に走るのは、ヨットは単調で飽きてきます。狭いところで、自在に艇を操って楽しむ、というのが、楽しいのです。ウインドサーフィンと同じで、どんなに広い湖でも、だいたい、一か所に固まって帆走を楽しんでいます。
- これらの湖には、1か所位、湖畔に駐車場つきの公園やキャンプ場(オートキャンプ場)などが整備されています。「内海」の場合も、駐車場・公園と海水浴場が一体的に整備されているところがかならずあり、砂浜から艇を出せます。これらの施設を、夏の湖水浴・海水浴の短い1か月間しか使わないと、いうのは、もったいな限りです。キャットボート(1枚帆の小型ヨット)だと、5月から10月(ドライスーツ・ウエットスーツ着用なら4〜11月、元気な人なら年中)、楽しむことができます。
- まだ、夏しかキャンプしない、という人も多いのですが、昔と較べると、テントやシュラフ(寝袋)の質は格段によくなっており、快適なキャンプは、むしろ、春や秋である、という事に気づく人々が増えてきました。キャットボートも同じで、水は冷たいものの、新緑や紅葉の自然が豊かで、風が爽やか、日差しも穏やかな春や秋が、一番楽しい季節です。春、秋にキャンプをやるようになれば、春、秋の水遊びや舟遊びも、艇や技術条件さえ整えば、普及は時間の問題です。
- 夏の強い日差しが苦手な女性や幼児連れ、中高年にとっても、春と秋なら、参加の可能性がでてきます。コンクリートばかりの照り返しで暑いマリーナやヨットハーバーに魅力を感じない人でも、緑の木陰で憩い、湖や海に舟を出すことは、きっと好きになるはずです。
- 自然豊かな「湖の小型ヨット」、緑の砂浜から艇をだす「内海の小型ヨット」、歴史的景観などにも恵まれた「河口の小型ヨット」など、アウトドアライフの1ジャンルである小型ヨットこそ、誰もが楽しめる本来のヨットの世界なのです。
- キャットボート(1枚帆の小型ヨット)をはじめとする小型ヨットこそ、本来の「ヨットライフ」のあり方である、というイメージを創りたいものです。
ここに、最適の本があります。イギリスの湖水地方を舞台にした、アーサー・ランサム著の『ツバメ号とアマゾン号』です。この本には、夏休みに、小型ヨットで無人島でキャンプを行う子供たちの冒険が描かれています。この本の中では、小型ヨットは、キャンプや釣り、探検などに欠かせない道具となっています。
アウトドアの活動の中に、小型ヨットは、一体のものとして溶け込んでいます。
7.「湖のヨット」の条件づくり
- 湖畔や河口、海辺の公園、湖水・海水浴場など、「湖・河口・内海の小型ヨット」のフィールドは、十分にあります。すでに、ウインドサーフィンの皆さんが、そのような場所を開発しています。
- あとは、自家用車の屋根に積める艇(アクアミューズなど)や、「Rambler」のような折り畳み式の艇(電車で運搬、宅急便で送付、自動車のトランクで運搬など)、あるいはトレーラーに乗せて牽引できる艇(エスケイプなど)がありさえすれば、このような場所で小型ヨットを楽しむことができます。
- もっとも、これらの艇は、まだまだ高価です。最初から買うことのできる人は少ないでしょうから、レンタル施設がいります。
8.スクール体制の整備
また、いつでも、だれでも、気軽に、安く参加できるスクールが必要です。
「湖・河口・内海のヨット」には、今のところ、スキーのように、誰でも、いつでも1時間体験コース、半日体験コースなどに参加できる、というようなスクールはありません。山中湖や野尻湖、琵琶湖など、民間では限られたところにしか、そのような施設はありません(艇の販売のためにスクールを開いているようなところはありますが、艇の売り込みが露骨で、嫌な思いをした、というような話も聞いています)。
- 市町村の「海洋センター」(B&G財団)や青年センターなどで、小型ヨットを持ち講習会を開いているような所もありますが(問い合わせてみて下さい)、いつでも、誰でも、というわけにはいきません。
- 小型ヨットの普及のためには、土日・休日やシーズン中に常時開かれ、様々なメニューの用意されたスクールが、是非とも必要です。イベント等から始めて、拠点づくりが課題です。
- また、30分、1時間、3時間でマスターできる、教習のカリキュラムが必要です。これは、いずれ別の機会にテーマにしたいと思います。