キャットボート・ツーリングマニュアル

1.基本事項

@ 「キャットボート・キャンプ」(ナイトキャンプ、デイキャンプ)は、水辺でオートキャンプなどを行い、キャットボートで遊ぶという、レクリエーション活動です。

A 一方、1泊2日などの「キャットボート・ツーリング」は、安全なゲレンデスキーに対する冬山でのツアースキーに相当する、多様な自然を相手にした、厳しい活動になります。

「チョット遠出してみるか」とスキー場を軽い気持ちで離れて、厳しい冬山で遭難するスキーヤーの例があるように、同じような危険性を伴っています。

B キャットボート・ツーリングは、自己責任の原則のもとに、絶えず変化する自然(風と潮流など)のもとで、あらゆる事態を予測し、自力で対処できる体制で臨みます。

どんなことがあっても、遭難事故は絶対におこさない、例えトラブルがあっても、「フェイル・セーフ」「フール・セーフ」の原則で危機を脱出できる力量のある人に開かれた世界です。

C 気象や海象を的確に判断でき、キャットボートの扱いに習熟し、危機を臨機応変、冷静沈着にクリアできる、十分な経験を積んでから、この面白い世界に踏み込んで下さい。
キャットボート・キャンプとキャットボート・ツーリング
水域 その他
ア.入門セーリング ・100〜300m四方の湖、沼、遊水池
・外海への艇速を越える流れのない内湾又は河口
・3m/sまで
・外海への風がないこと
イ.キャットボート・キャンプ ・自然豊かな湖
・艇速を越える外海の流れがない、奥行きの深い河口や内湾、多島海
・流された時に、オールで漕いで、上陸できる砂浜があること(上陸地点が、岸壁、テトラポット、岩礁の場所は不可
・外海の沿岸域での利用は不可
・6m/sまで
・外海への強い風がないこと
・経験豊富なリーダーを置く
・複数乗船
・複数艇で集団行動(カヌーを含む)
・各人、各艇の自己責任体制
・艇相互の連絡体制
ウ.キャットボート・ツーリング ・艇速を越える逆方向の潮流(離岸流)がないコースであること
・沿岸域又は多島海であること
・航行船の多い航路からの距離があること
・岸辺で大きな波がないこと
・8m/sまで
・向かい風でないこと

2.計画

@ これまでの経験・力量と、風の強さ、潮流(午後の風向きの変化を含めて)の速さなどを検討して、場所と日時を選びます(湖、河口、内湾、沿岸など)。

―帰りに向かい風、向かい潮にならないように計画します。

A 必ず複数艇(カヌー・シーカヤックを含む)で計画し、各艇には経験者を必ず1人(艇長)配置します。この経験者は、海での帆走の経験が十分にあり、艇が沈した時に自力で起こせる技術が必要です。

B 子ども連れの場合には、できれば、1艇は沈しないアウトリガー艇(トリマラン)を含めます。

―アウトリガーを付けたトラベラーやトリッパーなら、10m/Sの強風でも、転倒する心配はありません。

C 全体でリーダー、サブリーダーを決めるとともに、参加者の役割分担を決めて準備します。

・地形、海流、行程調査担当(エスケイプ・ルートを含めて調査)

・天候調査担当(特に、風速風向)

・連絡担当(携帯電話またはトランシーバー)(各艇にも配置)

  ・撮影、記録担当

・艇、装備担当(各艇にも配置)

・食料担当

D 各艇には、艇長(スキッパー)以外に、小学生高学年以上が最低1人、乗組員(クルー)として乗り、セイルロール(縮帆−リーフ)とセンターボードの上げ下げを手伝えるようにし、艇長を助けます。

E 午前中にスタートできる計画とし、帆走が夕暮れや日没時に絶対にかからないようにします。

3.事前準備

@ 天候調査

風向と風力は、キャットボート・ツーリングの最も基本となる条件です。わが国は、気象の変化が激しく、特に、風は局地的な変化も大きいので、注意がいります。インターネット等を利用して気圧配置を読み、行動期間中の大まかな天候の変化を予測するとともに、海上保安庁などの予報を聞きます。

また、現地でも漁師や釣り人などから情報をえるようにします。全員に出発前にレクチャーを行い、徹底します。

A 海流の調査

5m/sの横風で5ノット(約9m/時)のスピードしかでないキャットボートにとって、数ノットの潮流を風上に向かって(逆流逆風に)ジグザグに溯ることは不可能です。時刻に応じて、どのような向き・早さで海流が流れるのか(海図や現地での漁師へのヒアリングによる)、風向との関係はどうか、必ずチェックして下さい。

B 地形の調査

内湾の場合には、海図で海流や、エスケイプ・ルートとなる砂浜、万一流される場合の周辺の地形や目標物などを把握しておくようにします。荒れた海で、岩や高いコンクリートの海岸に安全に接岸することは不可能なので、ツーリングではいざという時のために上陸可能な砂浜や漁港、マリーナ、釣り船の桟橋などがどこにあるか、予め、地図で確認しておきます。この時、釣りの本などが役立ちます。

C 出発前に、艇を必ずチェックします。

―備品の有無、金具類の状態、リベット・ボルトの状態(腐食、欠落など)など

―ランブラーは、特に、Uジョイント、船体布の穴、エアチューブとエアタンク(浮力体)の空気漏れをチェック

D 装備品は万一のケース(霧の発生、夜間に漂流、艇の沈、艇や艤装の破損、衝突事故など)を想定し、万全として下さい。

・万一、夜間に航行しなければならない場合のストロボライト(補助的にカメラのストロボを各艇に装備する)。

・各艇がバラバラになった場合に、それぞれが対応できる備品ワンセットと積み込み体制。

―ナイフとロープ、携帯電話、防水地図とコンパス、ミラー、オール、バケツ、水と食料

―各艇で、どの場所、荷物にどの用品があるか把握

E レクリエーション保険を必ずかけておきます。

F ランブラーを使用する場合には、荷物は、3日前にトラック便で送るようにします。

・トラブルが起こる事を覚悟し、早めに送ります(送り直し可能なように)。

・いつ使うか強調するとともに、送り状のコピーを持ちます。

・荷物が何個到着しているか、事前に確認します。

B 防水袋入りの共同装備

・ヨット関係(次表参照)

・キャンプ用品(衣類、寝具、ライト、食料、医薬品など)





基本的な装備品(キャンプ用品を除く)
キャットボート・キャンピング キャットボート・ツーリング
ア.個人装備

<艇長のみ>
携帯電話(防水ケース)
ナイフ(首からロープでかける)ロープ(3mmと6mm−各2m)
ライター

<全員>
ライフジャケット
携帯電話(防水ケース)
ナイフ(首からロープでかける)
ロープ(3mmと6mm−各2m)
ヘッドランプ
ライター

イ.艇装備

トランシーバー(防水ケース)
落水者救助ロープ(艇の牽引も)
布バケツ、オールとクラッチ
空気ポンプ(ランブラー)

トランシーバー(防水ケース)
スーパーサウンド(音響発生器)
ストロボライト
信号弾
海図コ゚ー とコン゚ス(防水ケース
筆記用具

双眼鏡(防水)
カメラ

落水者救助ロープ(艇の牽引も)
布バケツ、オールとクラッチ
飲み物と食料
空気ポンプ(ランブラー)
排水ポンプ

ウ.団体装備

トランジスタ・メガホン
排水ポンプ
工具箱(ドライバー、ペンチ、ヤスリ、ボルト・ナットなど)
予備部品・緊急補修用品(Uジョイントセット、割ピン、テンションロープ、補修テープ、針金など)

GPS
トランジスタ・メガホン
携帯ラジオ(防水)
工具箱(ドライバー、ペンチ、ヤスリ、ボルト・ナットなど)
予備部品・緊急補修用品(Uジョイントセット、割ピン、テンションロープ、補修テープ、針金など)

4.出艇前の行動

@ リーダー、サブリーダー、各艇長(スキッパー)、乗員(クルー)、客(ゲスト)に対し、指揮系統と任務分担を説明します。特に、乗員と客にはセイルロール(縮帆=リーフ)の方法を教えておきます。

A 各艇への乗船者は事前に決め、艤装(セッティング)、荷物の積み込みは責任を持って各艇ごとに行います。

―各艇が、いざという時に、自力で様々な事態に対応ができるようにします。

―荷物は、各艇ごとにワンセット、積み込みます。

B リーダーとサブリーダーは、必ず天気図を読み、海上保安庁の予報を聞き、コピーを各艇の防水地図ケースに入れ、全員にレクチャーを行い徹底します。万一、艇がバラバラになり、一人はぐれても、天候などを判断できるようにします。

C 離岸直前に、携帯電話等で、各艇の連絡テストを行います。

D 緊急時の連絡先のコピーを渡し、徹底します。

・各艇長などの携帯電話番号

・海で行動する場合は海上保安庁の118
・湖で行動する場合は消防署117 又は警察署119

・陸上の支援班又は宿泊所など

E ツアー時には、トラベラーとトリッパーの場合、各艇にオールのクラッチは予め付けておきます。

F トリッパーとトラベラーは、アウトリガーを装着し、沈しない体制で臨みます。

G 荷物は最小限とし、荷物室に積み込みます。緊急時に動きやすいよう、コックピット内への積載はできるだけ少なくします。やむおえず、コックピット内へ積み込む時は、防水バッグに入れて浮力を持たせるとともに、必ず艇に縛りつけ、流出を防止します。ランブラーは、後部に左右2つ、前部にも1〜2、浮力のある防水バッグを配置し、浮力を増やすとともに、沈したときの水の呑み込みを少なくします。

5.離岸後の行動

@ 全ての艇は、原則として声が届く範囲に固まって行動します。

―どうしても2チームに分ける必要がある場合には(風が強くなり、子供の乗った艇を先に岸に向かわせるなど)、連絡体制を確保するとともに、各チームが独力で不測の事態に対応できるようにします。

―霧が急に出てきた時は、ロープで艇を結び、一団となって行動します(漁船や大型船と衝突しなよう、注意が必要です)。

A 風向きに沿った岸壁やケーソン(浮き)、停泊中の船などの傍を通る時には、近づかないように。ベルヌーイの法則(風速が早いところでは、圧力が弱まる)により、吸い寄せられます。

B サーフィンで有名な浜辺など、遠浅の砂浜では岸辺に高い波が発生しますので、岸近くを航行しないようにします。

C アウトリガーを装着している場合は、10m/sまでの場合、帆は畳まなくても大丈夫です。キャットボートは、帆を畳むと動きにくくなるので、帆を張ったままで、一刻も早く陸に引き上げる方が無難です(ただし、ケース・バイ・ケースで、慎重に判断して下さい)。

D もし、万一、帆が使えない事態になったら、オールで風下に漕ぎます(風上に漕ぐのは全くの無駄です)。また、荒れた海でオールを使う時は必ずロープをつけ、流出を防ぎます。

6 艇の問題発生への対処

@ キャットボートは、乗組員の体重の前後の移動、前後の荷物の重量バランス、帆のマストへの巻き取り(リーフ、縮帆)、帆の張り具合などによって、艇のバランス(帆にかかる風の圧力中心や、艇の重心の移動)が変わるデリケートな性質を持っており、風上又は風下に曲がる性質がでてきます。

A また、アウトリガーが片方だけ漬かると、抵抗が生じてその方向に曲がる傾向が生じます。走っていて、風上又は風下に艇の方向が曲がる傾向(ウェザーヘルム又はリーヘルムという)が生じたら、舵で調整するだけでなく(抵抗が増え、艇速が落ちる)、体重の移動したり、帆を強く張ったり、アウトリガーのバランスをとるなどにより、調整を図ります。

B ウェザーヘルムが生じたら、重心を後ろに移し、風下側のフロートを水につけるよう乗り方を調整して下さい。リーヘルムの場合には、逆に調整して下さい。

C キャットボートは、マストとブーム、ブームバングとブーム、ブームバングと艇、帆とブーム、セイルロープとブーム、セイルロープと艇を、それぞれ、金具又はロープで繋いでいます。予期せぬ条件のもとで、万一、金具やロープが外れたり(締め忘れなど)した場合には、所持しているロープで部材やロープをつないで応急措置をとり、できるだけ早く陸地に戻ります。

D 万一、舵が壊れたら、オールを船尾などにロープで固定し、舵代りとします。

7 沈した時

@ 転倒した艇の乗り組み員は、すぐに艇に取りつきます。風が強い時には、一瞬の間に軽いランブラーの場合には艇が風で流されてしまうので注意します。

A 艇長は、艇のマストを風上に向け、センターボードに乗って艇を起こし、帆を巻き、後部から乗り込み、布バケツを取り出し、艇内にたまった水を排水します。この時、荷物室に入れてなかった荷物が流れることがあれば、他の乗組員が拾います。

B 他の救助艇は、速やかに沈した艇に近づき、起こした艇に横付けして帆を巻き、艇のもやい綱を引くとともに、救助艇の艇長(スキッパー)と客(ゲスト)は艇を手で支えて安定させます。

C 投げ出された沈艇の他の乗組員(クルー)と客(ゲスト)は、救助艇の乗組員(クルー)が助け上げます。そのあと、救助艇の乗組員(クルー)は、沈艇に乗り移り、排水を手助けします。艇の水を完全に排出したら、沈艇の乗組員と客は乗り移ります。

D これらの作業は、冷静沈着に行えば、30分もかかりません。艇の荷物を荷物室に入れていたなら、荷物を流す損失もなく、服が濡れるのと疲れるだけで、何の問題もありません。

E 予期せぬ力がブームにかかり、ブームの端のシャックルが外れてしまう、というような破損が生じた場合には、その箇所をロープで繋いで応急修理するか、艇とブームをロープで縛り、ブームの跳ね上がりを防止します。

8.その他の問題への対処

@ 転落者の救助

なんらかの弾みで、艇長(スキッパー)、乗組員(クルー)、客(ゲスト)が落水した場合には、ベテランなら、そのまま艇を走らせて、Uターンして救助します。慣れない人が艇長(あるいは、その代わり)の場合には、セイルロープを放してただちに艇を止め(場合によっては帆を巻き取ります)、オールで漕いで、救助に向かいます。

A 怪我への対処

ジャイビングの時にブームで頭を打って頭を切る(ほんの小さな傷でも、最初、かなりの血がなます)、岩場に降りた時に貝で足を切る、ナイフで指を切る、泳いでいて電気クラゲに刺される、転倒してすり傷を作ったり骨折する、溺れる、日射病・熱射病になる、などの怪我や事故、病気に対しては、薬などの救急用品を必ず持つとともに、救急法をマスターして備えます。

B 霧中や夜間の航行

霧中や夜間の航行は、高速の漁船や岩礁などとの衝突の危険性があり、絶対に避けます。

もしも天候の急変で霧が生じたり、艇の破損などで夜間航行をやむなくしなければならないときは、スーパーサウンド(音響器具)、ストロボライト、信号弾などで、相手の船に知らせます。また、コンパス、GPSなどで進行方向を確保します。

C 落雷の危険回避

遠くで雷の音が聞こえた、稲妻が走った、入道雲が急に発達したなど、落雷の危険性がある場合には、できるだけ早く陸に帰り、艇から離れます。

D あらゆる事態に対して、自力で対応することが基本ですが、万一、遭難して携帯電話などで海上保安庁などに救助を求める時に、一番大事なことは現在位置を正確に伝えることです。危機に対処している時に、どんどん流されていて、位置がわからなくなっていた、というような事がないようにして下さい。